退屈と幸福のかたち

「退屈を持て余してる僕は思考の鬼だ」

「急にどうしたの」

「いや、暇だと思ってさ」

「思考の鬼ってなに」

「自分で言ったのにちょっと恥ずかしくなってきた」

「思考の鬼ってなに」

「やめろ、繰り返すな」

「で、なんなの?」

「暇だと思考が捗るだろ、だから頭は忙しい」

「でも退屈なんだ」

「難しいところだね、頭のある部分は忙しい、でも違う部分は暇だと思ってる」

「持て余すほどの退屈なんて普通の人はないんじゃない?」

「その理論だと僕が普通じゃないみたいだ」

「ある意味ではそうなんじゃない」

「まあね、それは諦めてる」

「諦めるなよ」

「ただ僕には持て余すほどの退屈があって、思考が止まらないことこそが幸福なのではと思うだけだよ」

「そうかなぁ」

「幸福なんて人の数だけあるよ、僕の幸福は僕のものだ」

「きみは幸せな人だね」

「そうだろうとも。僕は幸せさ、少なくとも今は」

「長くは続かない?」

「わからない。先のことを考える余裕なんてないよ」

「思考の鬼が聞いて呆れる」

「今を精一杯生きていると言ってくれ」

「綺麗事だ」

「綺麗事も集めれば真実に」

「ならない」

「だね」